安曇野便り NO.1 (20004月) 生活環境と子ども  

       生活環境と子ども

                     長野県南安曇郡堀金村   稲角 尚子

こんにちは。お久しぶりです。

9912月末にパートナーの転勤で安曇野に引っ越して、もうじき4ヶ月がたとうとしています。慌ただしい移動だったので、きちんとご挨拶できないままに失礼した方も多くてごめんなさい。

それにしても、学生時代からあこがれていた信州の、しかも文句なしに美しいと言われる安曇野の住人になれるなんて、ホント嘘みたい。学生時代に、京都から夜行の急行に乗って出かけていた美しい山々に、これからは交通費をかけずに行ける。今年の年賀状には、古くからの山好きの友人たちに「え〜やろ、え〜やろ」と自慢しまくりました。

しかしその一方で、香川の教育に少なからずコミットしてきた者の一人としては、後ろ髪を引かれる思いがしたのも事実。でも、この通信を開くたび、みなさんの気迫は伝わってくるし、「お互い、元気にやろうね」という気持ちになって励まされます。

私が住んでいるのは、常念岳(2857m)や蝶ヶ岳(2677m)山麓の長野県南安曇郡堀金(ほりがね)村。観光地として目立っている穂高町の南、そして豊科(とよしな)町の西に位置します。パートナーの職場がある松本市までは車で3040分ですが、隣町にあるJR豊科駅まで公共交通の便がないためか(車で10分位)、通勤圏としてはあまり注目されず、マンションやアパートなどはほとんどありません。住人のほとんどは地元の人で、最近は家を建てて松本などから移り住んでくる人がポツポツと出始めたようですが、その数はまだ少ないようです。JAの施設のひとつA-コープと「道の駅」の一部に物産センターがあって新鮮野菜などを販売していますがそれ以外にスーパーはなく、ゲームセンターもパチンコ店もありません。穂高のように観光地化されていない分、日本の原風景とも称される安曇野の田園風景がより残っていると私には思えます。

こういった、今となっては日本の中でも珍しい位に「遅れてる」村だということが、子どもが育つ環境としてこれ程大きく影響するとは・・・!!予想はしていましたが、本当に驚きます。これから何回かに分けてお届けする私の安曇野便りは、その「遅れてる」村の小・中学校の様子をお伝えしようと思います(小・中学校とも村に一校ずつ。一学年90名程度で3クラスずつある)。

子どもたちに「高松の方がよかったことって何?」と聞くとすかさず「学校まで近かったこと」と言います。実際、小・中学校とも歩いて40分位の距離。しかも帰りはかなり急な坂道を登ることになるので、うちの中学生いわく「毎日、足腰の鍛錬をしとる」ことになります。始業時間は815分なのですが、うちの小学生は始業前に友だちと朝のひと遊びをするらしく7時前に、中学の子は720分に家を出ます。高松で「子どもは9時に、中学の子も遅くても9時半には寝ている」と言うと「健康的ねえ」と半ば驚かれていましたが、末っ子(小3)が言うには「母さん、堀金の子はね。8時に寝る子が多いよ。9時だと遅い方だよ」とのこと。中学の地区PTAの会合の時に、「ここの子は早寝早起きですね〜」と隣りにいた人に言ったら、「う〜ん、このごろはそうでもないわね〜。上の子が中学の頃は9時には寝てたけど、この頃の子は夜更かしになってきてるでしょう。うちの子も時々10時まで起きてる時があるからね〜」とのこと。子どもの生活時間が高松とは確実に12時間はずれてることを感じます。中学の修学旅行の集合時間が530分であっても「みんな、別に驚かないよ。慣れとるみたい」とのこと。子どもを通じて知り合った家庭の多くが3世代同居で、祖父母が現役で農業をしていて両親が働いている(母親はパートの場合が多い)ようなのですが、農業従事者がいる家庭では朝寝坊はありえないということかも。部活をしている中学の子どもたちが朝練を自主的にやっていて、その場合は6時半前に家を出るというのには「ちょっと、行き過ぎでは」と思うのですが、いずれにせよ、早く起きて早く寝るという生活は、本来子どもにとって自然な姿かも?高松では、日曜日ですら6時前に起きるうちの子どもたちを時にうらめしく思ったものです(親はついつい夜更かしをしてしまう)が、こっちに来てからはもうあきらめの境地。夜更かしする私が悪いんです。

こっちの子は高松の子と比べてどう?と中3になった上の子に尋ねると「真面目さが全然違う」と言います。「学校の掃除だって、別に先生がうるさく言うわけでもないのにみんな真面目にやる。先生がいなくたってしゃべらずに黙々とやるもん。あんまりきれいに掃除するから廊下の床板の中央が凹んでるもんね。気がついたらうっかり僕も真面目に掃除してるってわけ」とのこと。私の中学時代(転勤族だったので中学は北九州市の門司区と小倉北区で過ごした)を思い返しても、その頃すでに「真面目はダサイ」雰囲気がありましたが、そういうのって都会的な雰囲気の象徴のような気もします。

先週の中学の修学旅行を風邪で欠席した息子が旅行後に登校した日、友達が何か言ってた?と聞いたら、「それがさぁ、みんな僕に気ぃ〜使ってんだよね。前の学校だったらバ〜カとか言われてるんだろうけど・・。2人の子がどうしたんだよぉって言ってきたけど、みんな僕が熱出したってことは知ってるわけだから、話が修学旅行のことに触れないようにみんなで気ぃ使ってんの。」と言います。「ちゃかしたり、けなしたりする雰囲気がないってこと?」と言うと、「もちろん。修学旅行に行けなくて可愛そうにって本気で思ってくれてるよ」。

こういった真面目さってどうしてできたと思う?何でこっちの子はそんなにいい子なんだろうね。高松の子と同じようにテレビだって見てるしゲームだってしてるんだろ?とパートナーが言ったら、息子はためらわずに「おじいちゃんやおばあちゃんがいるからじゃない?」と言います。「おじいちゃんやおばあちゃんがいたら、何か悪いことできんやん。親には反抗してもおじいちゃんやおばあちゃんが言うことって素直に聞かんといかん感じするし。この辺りのおじいちゃんやおばあちゃんって他人に対して丁寧だし、親切にせんといかんっていつも言ってんじゃないかな」というわけ。なるほどね。

息子のこの分析が(少なくともこの地域に関して)当たっているかどうか、私にはまだわかりません。でも、ここの子どもたちがどこかおっとりしていたり競う感じがあまりないのは、確かに3世代同居の子が多いことと関係ありそうな気はします。

転入して4ヶ月。私は前述したように大型スーパーもパチンコ店もゲームセンターもないこの村の生活環境と子どもの育ちとの関係を、今つくづく考えているところです。もちろん、だから3世代同居して老いた親は家庭で介護すべきだとか、とにかく田舎はすばらしいとか言いたいわけではありませんが。

では、学校の中の様子、PTA活動については次回以降に続けたいと思います。

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