安曇野便り NO.10 (2001年1月)
      必要なことをやるPTA活動
                   長野県南安曇郡堀金村  稲角 尚子

雪は静かに降る。静かに静かに降り続いて、少しずつ少しずつ積み重なって、気
がつくとあっという間に大変な積雪になっていたりします。ちっとも大騒ぎせず
、ひっそりと「積む」作業を黙々と続けて、そしていつのまにか視界を一変する
ような、そんな仕事が私にできるでしょうか。
今年は久しぶりに冬らしい冬になりそうですね。こちらは朝の最低気温がマイナ
ス10度前後。時にはマイナス15度近い日もあったりして、信州弁で言うところの
「凍みる(しみる)」という言葉が実感として分かるようになってきました。そ
して、「今日は雪がだいぶ降りそうだ」ということも空の色とか頬が外気に触れ
る時の感じとかで分かるようになってきました。雪の中でじっと春を待つ庭の桃
の木にはホオジロやモズが訪れます。信州に越してきてちょうど1年経ちました。

そんな信州の冬、大人は「うひゃあ、また運転が大変や」と騒ぐばかりですが、
子どもたちは雪や氷といった冬そのものとの出会いを楽しんでいる様子です。
学校帰りに用水路にかかる小さな橋の下に「両手で抱えきれないような大きさの
つららがあったよ!」と興奮して報告する小3の娘や、近くの家の軒先にあった1m30cm
程の剣のようなつららを「おみやげ」と持ち帰る小6の息子は、つららの存在その
ものに目を見張ります。今年は「少年雪かき隊(中3と小6のコンビ)」の出動す
る日も多く「新聞やさんが来る前に先に雪かいとくよ、急がないと大変!」と言
いながらも(不思議なことに)実に楽しそうに日曜日の午前5時半くらいから雪か
きをしています。朝食をはさんで今度は一人暮らしの大家さんのところに雪かき
に行ったら、とっても感謝されてニッコニコ。子どもは本質的にからだを動かす
ことが好きみたい。そして、それが誰かに喜ばれるならなおのこと。雪が40cm近
く降った日などはそれこそ喜々として雪かきをやり、玄関と車庫の前だけを雪か
きしただけでも高さ2m近くの雪の山ができて、それからは雪かき作業がいつのま
にか「かまくらづくり」に予定変更(これは中3生をリーダーとするプロジェクト
チーム。小3の娘は這いつくばって掘る作業を黙々とやりとげ、全身雪まみれ。鼻
水をたらしながらかまくらの中で立ち上がって、輝くばかりの笑顔を見せます)
。やけに歓声を上げてるなと思えば、大家さんの田んぼの土手(高さ3〜4m)をス
キーで滑り降り、そのまま3mほど下の(白菜を植えていた)畑に向かって「ジャ
ンプ!!」して、ずっこけてゲラゲラ笑い転げている子ら(小6の息子は5mほど空
中を跳ぶ!)。
な〜んにもない冬でもこんなに遊べるなんて。私たちにもこんな時代があったん
だよね。 

山肌を削るスキー場でのスキーなんてしないぞ!と思っていた学生時代。なのに
「信州に住めるなんていいね〜、スキーになんぼでも行けるやん」なんていろん
な人に言われると、年に1〜2度くらいは行ってみよかと思うから、案外私もミー
ハーなのね。地元紙の「ください」コーナーに「スキーセット、スキーウェアく
ださい」と出したら、電話がかかってくるわかかってくるわ。頂いたのは「もう
スキーは飽きた。今はボードに夢中」の学生さん。「もう子どもも大きくなって
」とか「流行遅れで悪いね」と言われる方(悪くなんてないです!ぜ〜んぜん)
。それにプロ級の人はスキーウェアも毎年のように買い換えるそうなのです。豊
かな国ニッポン。そのおかげで家族全員分プラスα揃ってしまいました。頂いた
スキーウェアを着て、頂いたスキーはいて、頂いたストック持って、これまた頂
いたサングラスまでかけて、自分で言うのもナンですが超カッコイイ。でもこれ
だけ見かけはカッコイイのに「うわぁ!止まらへーんッ」などとわぁわぁ騒ぎな
がらドテッと転んで雪まみれになるそのカッコ悪さ。近くにいた小学生が「おば
ちゃん、飛ばしすぎだ」と短くコメント。はい、その通り。実力以上に突っ込み
すぎたと思います。でも、ちょっと聞きたいんやけど、サングラスまでかけてん
のになんで「おばちゃん」て分かったの?

さて、今回は1年間経験して少しずつ分かってきた、こちらのPTAのシステムにつ
いてお伝えしたいと思います。
結論から言うと、香川で8年近く経験したPTAで感じた問題点や矛盾のほとんどが
、ここでは解決してしまっています。
保育所・小・中とず〜っと同じ仲間たちで育っていくというこちらの学校でのPTA
。保護者はどこかで1度は役員をしようという申し合わせになっていて、いろんな
親が入れ替わり立ち替わり役員になっています。だから地元の有力者が牛耳って
いるという感じがない。三役などの役員も、まず選挙告示があって立候補を受け
付け投票をするということから始まります(小学校PTA)。立候補がない場合に、
学年会長(各1名)・各地区会長(計9名)・学校代表(1名)により構成される選
挙委員会が選出して総会の承認を得ることになります(中学校PTAは最初からこれ
)。この選挙方法だと、学年会長や地区会長自体がいろんな人がなるので、固定
化された人選にならない。香川の小・中学校であ然とした本部役員の決め方(会
則に明記されていない秘密会で会長・副会長が決まり、結局そこでは青年会議所
のメンバーが順番にやると決まっているとかで、立候補は受け付けない)が、い
かに異様なことだったかと改めて思います。まぁ、実際にはこちらでも立候補が
なくて昔の同級生とかから話が回ってきて断りきれずに引き受けるなどというこ
ともあるようで、人づきあいから決まっていく場合も多そうですが、選考のシス
テムとしてはきちんとしているわけですから、何らかの考えを持って立候補する
人が出てくることも充分可能です。
それに、香川でさんざん提案してきた「必要なPTA活動を」ということが、こちら
ではあっさり実現しているからうれしい。
PTA会員同士の親睦のためにバレーボールやソフトボールの試合のお世話をすると
いうことだけが仕事だった体育部はありません。授業参観のあとに親子でスポー
ツをするというのが学年やクラスの役員によって企画されることはあります。(
香川でのPTA球技大会は参加人数を集めるのに四苦八苦。結局は役員だけの親睦会
になって、お弁当やお茶を飲んで10万円近くものPTA予算を使うところもありまし
たよね。)
「1点1点と積み重ねることの意義を子どもたちに伝えることに意味がある」とし
て毎月親たちの膨大な時間とエネルギーを費やしてやらされていたベルマーク収
集は、こちらでは子どもたちによる委員会活動のひとつになっています。香川で
はベルマーク収集だけが目的になっていた厚生部。こちらでは環境整備事業を企
画・推進したり給食試食会を開催する仕事をしています。中学校にあるビオトー
プもPTA活動から生まれたものだそうで、私が5月に参加した中学校親子作業もビ
オトープのせせらぎ周辺整備でした。給食試食会は小学校では低学年・中学年・
高学年と3回に分けて行われるので子どもの対象学年の時にすべて参加することが
できます。私も、子どもが「おいしいよ」と自慢する小・中それぞれの自校方式
の給食を味わって、栄養士さんのお話を伺ったり質問したりすることができまし
た。だから、米や野菜、パンや麺類などがどこから仕入れられているか、ダシは
何を使っているかなども知ることができます。もちろんアンケート用紙も配布さ
れて、量・味付け・盛りつけ方・配色など毎回細かく意見を聞かれました。4〜5
年後をめどに具体的に検討され始めた小学校の改築に伴い、現在は小・中それぞ
れにやっている自校方式の給食をセンター化する案が出てきたらしいということ
も試食会で話題になりました(参加した親たちは「子どもたちが見えるところで
給食が作られることに意義がある」と口々に話していました)。
文化部は新聞づくりを担当。かなりの予算を使う割には人集めに苦労する高松で
の年6回もの平日昼間の家庭教育学級(しかも毎年学校に決めてもらった企画で埋
まっていき、新しい試みをすることは難しい)は、文化部の定番行事にはなって
いないようです。
最も活躍していると思われるのが校外指導部。各地区危険個所の調査をして村の
公安委員会に安全対策の要望をしている(必要ならば足形塗りも要望する)こと
や夏休みのプール監視当番を組織したり救急法講習会をしていることについては
、NO.5「逃げずに問題と向き合う」の中でも書きました。その他に、小学校が年2
回自転車教室をしているのですがその現場指導協力をしたり、地区児童会の指導
もします。小・中共に地区懇談会をリードするのもこの校外指導部です。この「
子どもの安全・校外生活の充実」を第一目的としている校外指導部の働きを見て
いると、子どもを育てるということがいかにたくさんの大人たちの協力を必要と
しているかを実感します。育成会も兼ねているので、地区での夏休みのすもう大
会など様々な行事でもお世話になりました。
いわゆるクラス役員は学級会長・副会長と呼ばれ、参観日や懇談会などクラスや
学年の行事推進を担当していますが、その学級正副会長会が兼ねている仕事に県PTA
の組織の中にある母親委員会があります(中学校は学級副会長だけで組織されて
いる)。香川にいる時にはPTAの女性副会長が市や県の母親委員会に参加するとい
うことしか知らなかったし、どんな活動をしているのかも知らされていませんで
した。しかし、こちらでは「母親委員会ってどんな活動しているの?」という声
を耳にしたから、とすぐに母親委員会の活動内容を知らせる通信が発行されたり
、「食と子どものおやつのとり方」を学習しようと手作りおやつの講習会を開く
案内が来たり、その報告としてレシピが配布されたり、郡の母親委員会で講演会
があったからと報告のお便りが出たりします。県のPTAで「母親委員会」という名
称を見直ししようという意見が出てきていることも伝えられました。
こうやって、こちらでのPTAの活動内容を紹介すべくまとめて書いていると、香川
での体験とあまりに違うことに今さらながら驚きます。活動内容が何よりもその
「必要性」から収斂してきていること。そしてそれぞれの活動内容を一般会員に
広報するという基本的で大事な仕事を放棄せずに続けていること。実際に応募が
あるかないかに関わらず、常に誰でも参加可能なことは広く一般会員に知らせて
申し込みを受け付けていること。どれも、会員みんなに関わる大切なことだと思
います。
ほとんどの活動は夜行われるので、仕事をしている人ももちろん参加します。教
師をしている方も活動されています。高松で私がクラス役員をしていた頃、土曜
日に担任教師を囲んで昼食を共にしながらおしゃべりする会というのを開きまし
た。その時参加された保護者の中で教師をされている方が「息子のクラスのPTA活
動に参加することができたのは初めてです。私だって悩みや不安があるし、クラ
スの様子も聞きたかったし、ホントうれしい。ありがとう」と言われたことをつ
くづく思い出します。フルタイムで働いている人はとにかく参加しにくいPTAでし
た。学校の教職員ももちろんPTA会費を払っているのに、香川ではほとんどの活動
が平日の昼間だったために、各部担当の教師は名前だけで実質は参加できなかっ
たのですが(そのかわりに管理職による活動のチェックが厳しかった)、ここで
は活動の中心が夜なので担当の教師も一緒に活動します。私はこの1年、中学校の
文化部でPTA新聞づくりを担当したのですが、担当の教師とうち解けるにつれ新聞
づくりの作業をしながらいろんな話をする機会を得ました。お一人は息子の家庭
科の先生でしたので、息子がいかに「我が道をいく」タイプかということを学校
での様子からも確認できましたし、あるいはまた、ここの中学校では若い独身の
先生同士でカップルができやすい(ウヒョヒョ)などという無責任な噂話で盛り
上がったこともあります。こうやって、さまざまな学校の裏話をしながらいろん
な話を(子どものクラス担任以外の先生と)するというのは、香川ではなかなか
難しかったものです。
PTA会費の中から市P連や県P連に上納されていても、どんなことやってるか全く広
報されなかった香川県。長野県はちゃんと年3回「長野県PTA新聞」が全会員に配
布されます。
どれもこれも、香川で私たちが要望し続けながらなかなか実現しなかったことば
かりですよね。でも、私たちのこれまでの主張が理想論でも無理な注文でもなく
、当たり前に実現できていいことなのだと、ここのPTAを見ていて確信できました


もちろん、ここにも問題点はあります。「必要な」活動に収斂されていてもなお
「できるだけ楽をしたい」という意識で動く人も多いこと。特に、教師も一緒に
かかわっていることで、どうしても教師に頼る傾向が親の側にあること(PTA新聞
づくりでも「前はぜ〜んぶ先生がやってくれてたけどねぇ」とささやく人もいま
した)。また、PTAの中での話し言葉としていまだに「父兄」なんて言葉が生き残
っていること。PTA会長は父親という慣習がありそうなこと。体操服の販売などで
特定の業者が学校の中に入るということに鈍感らしいこと。できるだけ「楽な」
役員を早めに済ましておこうといった雰囲気が多くの親にあること。そして、例
年どおりのマニュアルを遂行するというのは何の問題もなくやれちゃうけれども
、新しい取り組みをするのはやはりここでも結構難しそう。それでも、ひとつの
学年・クラスや専門部ではまだ可能なようで、たとえば下の子の学年(小3)では
学級助成金を親子レクの後のおやつ・ジュース代などに使うのではなく、リンゴ
のオーナー制度を利用してリンゴの木を借り、摘果作業・葉摘み・収穫という作
業を子どもたちと学年の先生たち、そして参加できる親でやるという試みがなさ
れたし、中学校で「ごみ問題を考える」というPTA講演会があった時に「中学校で
の具体的な取り組みとして学用品の再利用は考えられないか」という意見が出て
、厚生部が生徒と保護者にアンケートをとって学用品のリサイクルを検討し始め
るといった具体的な取り組みに結びつくこともあります。
でも一方で、何かと動きづらいPTAだけに頼ってないで、有志で集まっていろいろ
やっちゃおうというパワフルな人たちがいることを知って感心しました。昨年の
今頃、転入して初めての授業参観と懇談会に出席した時のこと(当時小2の娘のク
ラス)。主には次年度の役員決めが話題の中心だったのですが、そのあと校舎の
耐震検査を村議会に署名と共に請願した件についてひとりのお母さんから報告が
ありました(請願母体は「堀金村の教育を考える会」というのだそうです)。村
長が議会で「検査の結果が悪かったら、いたずらに村民に不安を与える」(これ
はどこでもよく聞くセリフだよね)と答弁したそうで、「エ〜ッ!」という驚き
の声や「子どもの安全をどう思ってんの?」「ほりで〜ゆ(村営温泉宿泊施設)
なんかにお金使わずに子どもの命を守るべきよ」「災害の時は学校が村民の避難
場所にもなるんでしょ」などなどブーイングの声が教室内のあちこちから上がり
ました。さらに要望を続けるのでご協力を、ということでしたが、もちろんこう
した動きが小学校の改築へとつながっていったのは確かみたい。でも、改築され
るまでの子どもの安全はどうなるの?と運動は続いています。

 システムとしてできあがっている部分はいいけれど、新しい提案や意見に対し
てPTAがどのように検討したり改善したりすることができるか。たとえば小学校で
の体操服の常時着用について。中学校の通学服自由化について(隣の穂高町では
教育委員会からの提案で今春の中学1年生から自由服登校になるってことは、先月
のNO.9「大人からの真摯な問いかけ」に書きました)。あるいはまた、中学校が
今まで3年間クラス替えがなかったのに今後は1年でクラス替えをするという提案
が先日中学校側からあったのですが、保護者には反対意見の人がいるようです(
私は毎年のクラス替えに慣れていたので問題点がまだよくわからないけれども、
意見をよく聞いてみたいと思っています)。・・・こういった様々な意見がどん
なふうに検討されるのかされないのか、もちろん内部にいる私も発言し、考えな
がら行動していきたいと思います。

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