LEE Summer Travel    LEE 1992.9 撮影 奥谷仁 大槻茂 文 おおくにあきこ

信州 安曇野      

高原を遊ぶ。 高原を描く。

草花遊び、スケツチ美術館巡り−

信州の高原は水がおいしい。空気がおいしい。そして自然の野山が美しく、そのうえ芸術や文化の香りが芳しい。夏真っ盛りの信州安曇野をくまなく歩くちょっぴり欲張りな旅に出ました。まばゆい夏の緑と太陽を追いかけて、子供と一緒に作る旅日記。道端の道祖神や白いそばの花も楽しい思い出の1ぺージに。期待どおり、宿や美術館でほのぼのとした出会いも。ホラッ、北アルプスの高原の風が、吹き抜けていく!

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北アルプスの麓の手作りペンションで、

心ゆくまでナチュラルライフ

ママ、ここってトトロいるかなあ!手作りぺンション舎爐夢ヒュッテに人る道は、静かな雑木林に囲まれた道。大君が目を輝かせて叫んだように、本当にトトロが住んでいそう。

「うん、きっといるよ、お泊まりしている間に会えたらいいね」

イラストレーターの田中佳子さんが一度訪れたいと思っていた安曇野。

「北アルプスに抱かれて、なだらかに広がる安曇野は、とっても優しいカントりーサイドに違いないと思っていたんです。水が美しくて、小さな草花が咲き乱れていて…。そして碌山美術館や有明美術館、工房の森など、安曇野は昔から芸術を大切に育ててきた文化的な町なんですよね」

今回の安曇野行は佳子さんの作品世界をより豊かにするためのインスピレーション・ジャーニー。そして一人息子の5歳になる大君とのカントリーライフ体験旅行。そんな目的に合わせて佳子さんが選んだ宿は、手作りペンション。『舎爐夢ヒュッテ』。穂高駅から北へ7q。町並みを抜けて雑木林を分け入っていくと、はるか向こうに後ろ立山連峰を望むヨーロピアンスタイルの山の家がある。

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 シャロムはヘブライ語で平和の意味 

「ようこそ!いらっしゃい」「メェメエ」「ガァガァ」「ワンワン」オーナーの臼井健二さんと奥さんの朋子さん、6ヵ月の仁君、そしてヤギのユキとアヒルのガア子、犬のクマが、田中さん親子をにぎやかに迎えてくれた。

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アヒルのガァ子はとても人なつっこい。すぐに仲良しになった大君

大君、あとでヤギの乳搾りをやってみようか 臼井さんに誘われて、その日の夕方ヤギ小屋での乳搾りに参加。でもちょっと怖くて、眺めていただけの大君だった。

ヒュッテの中のインテリアもとても素敵ですね。佳子さんがまず感心したのは、それらがすべて手作りだということ、蔓で編んだランブシェード、草木で染めて手で織ったべ−スラグ、木の風合いを生かした椅子やテーブルー…

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「部屋に閉じこもってないで談話室においでよ」と臼井さんが誘う。談話室には手回しのオルゴールや本、絵本があって自由に楽しめる。

 さらに驚いたのは、このヒュッテ自体が手作りだということ、臼井さんが山仲間の協力を得て完成させたのだ。素建ては専門家に頼みましたが、木の切り出しから、壁塗り、屋根葺き、床張り さらには床暖房の配管まで自分たちの手で仕上げました、3年がかりでしたよ。

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各部屋の扉には自然の香りいっぱいのイングリッシュチャームが 蔓で手作りしたランプシェード。気の原木を利用した手作りの椅子。共同のトイレはどこも使い勝手がよく広々。部屋別にタオルも用意されていて清潔感も。

オーブンから11年たった今も、少しも古さを感じさせず、そこにいるだけで心やすらぐのは、愛情込めた手作りの家ならではなのかもしれない、臼井さんファミリーも、ここに集う人々も、みんなこの家が大好き。佳子さんも、

「こんなぬくもりのある家って素敵ですね。こんどは主人も、一緒に来たいな」

 佳子さんはその夜、このヒュッテの温かな印象を描いて眠りについた。

ヒュツテの畑の新鮮野菜が

ナチュラル感覚で料理されて素朴なごちそうに

 『舎爐夢ヒュッテ』の朝は6時半に始まる。地下のフリースペースに宿泊客が集まって、みんなで起き抜けのヨガ。ヨガを習ったことのある佳子さんも大君も張り切って参加。

「ふだん早起きは苦手なんですけど、ここに来たら早起きしなくちゃもったいないですよね。体の節々が伸びてとっても気持ちいいし、おなかもすいて朝ごはんが楽しみになります。」

朝ごはんは舎爐夢ご自慢のビュッフェスタイル。天然酵母と地粉、全粒粉で作ったカンパーニュ、ほんのり甘味がきいた玄米おかゆパン、朝取ったばかりの野菜の温サラダ、パスタ、ヤギの乳で作ったナチュラルチーズ、野草茶―――これらを自分の皿に盛りつけて、テラスやバルコニーへ。ほうぼうにトースターが設置されていて、好きなところで食べられる。

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朝食は緑を見ながらテラスで。本当に気持ちのいい1日の始まりを実感。

「この玄米おかゆパン、うちでも作れるかしら−−−」

とつぶやく佳子さんに、「簡単、簡単。一緒に作ってみましょうか」と朋子さん。ふたりは早速キッチンヘ。ここ舎爐夢ではいつもこんなふうに、にわか仕立てのクッキングスクールが開催されている様子。

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自然食のオーソリティの朋子さん 宿泊客に請われてクッキング教室を開くこともしばしば。桂子さんは、玄米おかゆパンとノンシュガーのアップルパイの作り方を実践しながら教えてもらった。

「ついでに今晩のデザートに出す予定の、砂糖を使わないアップルパイというのも作ってみませんか?」

「ええ、ぜひぜひ。…ダイエットにも効果がありそうですしね」 

砂糖を使わずに煮たアップルジャムは驚くほどりんごの香りが生きている。甘さを補うためにゆでたさつまいもを砕いてカスタードクリームに見立てて入れたり、干しぶどうを散らしたり・…朋子さんの料理には体に優しいアイデアがいっぱい。

「玄米おかゆパンには、だしに使ったこんぶやキャベツの芯、ねぎのひげ根などを入れます。いつもは捨ててしまうところほど甘味があるんですね。もちろん栄養もたっぷりですよ」

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朝ごはんに食べられるカンパーニュ 玄米おかゆパン デザートのノンシュガーアップルパイ

別名ザンパンパン。でもそんな別名とはほど遠い上品な甘さのパンだ。夜は玄米菜食を中心とした洋風コース料理。大君は香ばしい玄米が気に入って、お替わりコール。昼間、野山を駆け巡ったことも手伝って、大人2人前をペロリとたいらげてしまった。もちろん、安曇野らしい料理も。例えば、自家製そばのそば寿司やニジマスのムニエル・わさびソースなど。

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その夜のメニュー。あんずのお酒、ふだん草のスープ、そば寿司、ニジマスのムニエルわさびソース、大根のフライ、玄米菜飯、小梅、昆布の佃煮、デザートの豆腐ムース、玄米コーヒー

 

「大、今日、きれいなお花畑行ったでしょ。お絵描きしたところ、白い小さなお花がいっぱい咲いていたでしょ。あれがそばの花で、その実からこのおそばができるんだよ」

ママの言葉に「ふ〜ん」と大君。考えてみたら、都会にいれば大人だってそばの花のことを知らずに過ごしてしまう。大君、一つ勉強になったね。

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 イワナのスモークをする臼井さん。このスモークのできる暖炉は ペチカにもなり床暖房にもつながっている優れもの。もちろん臼井さんの手作り

 

 スケツチ、花摘み遊び、カゴ作り・・・・。

安曇野の自然の中で、思う存分フィールドプレイ

 

 「ねえママ、僕、犬をお散歩させたい」東京のマンションで犬を飼うことはできないけれど、田舎のおばあちゃんの家に行くと必ず犬を散歩させているという大君、舎爐夢ヒュッテの愛犬クマはとっても気が優しくて、宿泊客に散歩に連れて行ってもらうのが大好き「それじゃあ、ママはスケッチの道具を持って行こうっと」

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犬のクマを散歩に連れ出した大君。ヒュッテの周りは花の咲き乱れるロマンチックな散歩コース ヒュッテのそばを散策していたら、突然美しいそば畑にたどり着いた。

アカツメクサ、シロツメクサ、ウツボグサ、シモツケソウ……ヒュッテの周りには、たくさんの草花が自生していて、スケッチの題材には事欠かない。

 「アッ、これきのう食べたよ」

大君が見つけたのは、小さなオレンジ色の草の実。そう言えばきのうの夕食に添えてあった甘酸っぱい味のした実だ。

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桑のみを摘んでみたいとママに抱っこされる大君。桑の実は黒っぽく熟してきたら食べ頃。甘くて、ほんのり酸っぱい天然のおやつだ。

「大君、よく見つけたね。それはモミジイチゴ。ほら葉っぱがモミジみたいな形をしているだろう」

臼井さんは、本当にたくさんの草花の名前を知っている。そして朋子さんは草花遊びの名人だ、シロツメクサとアカツメクサで冠をこしらえたり、ヒュッテの裏の麦畑で麦の穂を摘んで来たと思ったら、あっという間にかわいいイングリッシュチャームが出来上がったり。

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「以外に簡単ですね」と、イングリシュチャームを作ってみる桂子さん。麦の穂と、余りのリボンがあれば、こんなにかわいい作品がたくさんできる。

「たくさん花を摘んで来たから、飾るためのカゴを編んでみましょうか?」

材料はすぐそばの石垣に密生している蔓。葛の蔓は大きめのカゴに。スイカズラやアオツヅラフジは小さめのカゴに、

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朋子さんに教えてもらってカゴ作り。右の小さい2つが、桂子さんと大君の作品、なかなかのお手並み

「こんんなふうにして自分でカゴが編めるなんて思いませんでした。」

すっかり感激している桂子さん。大君も上手に仕上がって満足顔。

「作った花カゴはおみやげに持って帰ってくださいね。」

本当にたくさんのおみやげができた。花カゴとイングリッシュチャーム……そして自然体験、仕事が忙しくて来られなかったパパに、大君はどんな思い出を話してあげるのかな。

 ●舎爐夢ヒュッテ

長野県南安曇郡穂高町豊里 0263・83・3838 1泊2食付き9000円

子供料金は部屋によって異なるので問い合わせを。夕食2200円、子供の夕食1000円、朝食800円、アトピーの除去食希望は予約時に

もう一つの顔”芸術の安曇野〃をたっぷり楽しむ

安曇野には2つの顔がある、ひとつは、北アルプスに抱かれて、四季折々の表情を変える山里の顔。もう一つは、ここで生まれ育ち、東洋のロダンと言われながら32歳で天折した彫刻家、荻原碌山に代表される”芸術の顔〃である。上地柄であろうか、安曇野の自然が培った芸術の気風は地元に芸術家を育て、都会人をとらえた。そしてまた、町のここかしこには美術館やギャラリーが点在する。駅に、喫茶店に、銀行に、とさりげなく併設されたギャラリーは過ぎ行く人の足をしばし止め、ひとときのやすらぎを与えてくれる。さながら町全体が、色とりどりの展示室を備えた一つの芸術館のよう。とりわけ美術館には、晩年の傑作「女」を含む碌山の作品が静かに堪能できる碌山美術館をはじめ、小ぶりだが個性的な作品を楽しませてくれるところが多い。安曇野絵本館もその一つ、外国作家を中心に選りすぐりの絵本を展示販売、原画の企画展も楽しめる、町はずれのクヌギ林にひっそりと立つ有明美術館もユニーク、古陶器から現代作家のリトグラフまで女性館長の個性あふれるコレクションが楽しめる。触れるだけでなく、作る楽しみを与えてくれるのも安曇野芸術の魅力。創作のために移り住んだ作家の工房が点在する工房の森。ここでは、彼ら自身の手ほどきを受けながら陶芸、版画など自作を作ることができる。また、ガラス器の制作ができる安曇野ガラス工房などがある。

 絵本が作品の安曇野絵本館

オーナーの廣瀬さん夫妻。安曇野に惚れ込んで東京から移り住んだ オープンは昨年の7月、どっしリと重量感があり、木の風合いが心地よい この建物には廣瀬さん自身の手も加わっている。館内は独特な空間に区切られ、回るうちにだまし絵の迷路にさまよい込んだような不思議な感覚に・・、ひととおり見ると、お茶のサービスが

 「絵本は子供のためだけのものではない。いいと思う本物の絵本は、大人の人にこそ見て欲しいですね」 絵本の展示販売のほか、年に数回気に入った作家の原画展を開く。

0263・83・6173AM9〜PM6休、火曜 入館料700円(飲み物サービス付き)

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創作体験ができる工房の森

落葉松林に点在する 工房の森では、陶芸、版画、彫金、染色織物、フラワーデザインの6人の作家が、自分の創作をべ一スにしながら一般の人を対象に作品の制作指導をするという、オ一プンな活動を続けている。 

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 版画の菅田先生は、工房の森の代表者「また来たいと言ってもらえるところにしたいですね」工房には宮澤賢治の世界を思わせる作品が飾られている。

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陶芸の井上先生 土もみから成型まて焼き物の基本を指導 作品は先生の手で窯へ 定期的にやって来る人も多いとか 個展も毎年1回開いている。

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染色は、鎌倉から移り住んた塩田先生が指導。土地の植物を使った草木染めや藍染めなど、オリジナルデザインの染めが楽しめる。壁には友禅の作品が 実習は原則3日。実習費5000円(材料費込み)陶芸と染色は半目コースもある。

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申し込み先:0263・83・4604 工房の森事務局 代表 菅田栄一

穂高駅併設ギャラリー 

安曇野の中心となる穂高駅 松本から大糸線で30分 駅に併設されたギャラリーでは、地元作家の個展が開かれ、電車の待ち時間もゆったり過ごせる。安曇野では、スポット的に人が集まる喫茶店や銀行などに個性あるギャラリーが設けられている。 芸術がごく自然に、日々の生活の中に溶け込んでいるのだ。

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安曇野ガラス工房

オリジナルのガラス器を制作販売 体験スクールもあり、へ一ハーウエイトやコップなどの小品が作れる。宿泊プログラムと日曜の終日プログラム、ともに1回1万3000円 申し込みは3週間前に 土・祭日のみ、1回15分の ぐい飲み制作のコースあり 

0263・72・8030 AM10〜PM4 無休

lee.garasu1.jpg (3906 バイト) lee.garasu2.jpg (2751 バイト) lee.galasu3.jpg (3973 バイト) 田中さんが作った一輪差し

多彩な展示の有明美術館

雑木林に囲まれ、一見民家と間違えそうな館がこの美術館。女性館長の松村さんは、演劇が縁て安曇野へ。 すっかり気に入って自分のコレクションを展示する美術館を建ててしまった。今年で10年 11月まて企画展を開催。

0263・83・3701 AM9一PM5 休火・水曜入館料500円

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躍動感あふれる彫刻の宝庫、碌山美術館 

安曇野を訪れたら、必ず足を運びたいところの一つ ツタのからまる赤レンガの建物は、安曇野の風景にすっぽりとおさまり美しい。 穂高出身の荻原碌山の作品を中心に、碌山と親しかった高村光太郎、戸張孤雁などの力強い作品を展示。

0263・82・2094 AM9〜PM5 休月曜・祭日の翌日500円

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自転車で道祖神巡り 

 安曇野ならではの見どころと言えば、集落の辻々にたたずむ100体を超える道祖神である。子孫繁栄、無病息災を析願して建てられたこの道祖神、仲よく手を取り合うものや盃を持っものなどバラエティに富んだ表情になんとも言えないい愛敬がある。あぜ道や小路の角々に点在しているので、自転車で回ると田園風景と一緒に楽しめる。

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