日時 2006年9月24日(日)
講師 竹内孝功(たけうち・あつのり)臼井健二(うすい・けんじ)
レポート こう・ぷみん
「耕さず、肥料、農薬を用いず、草や虫を敵としない」自然農。
草が生えている畑を前にして、作物がすくすく育っているのを目の当たりにすると、これでいいんだ。と素直に受け取ることができます。他から奪わなくても、敵としなくても、身近なところに豊かさがある。身近なところに暮らしがある。田んぼや畑を通して、そんなメッセージが届いてくるようです。安曇野シャロムヒュッテでは、自然農を分かち合っています。あるものを分かち合い、無いことからも生まれてくる。自然農をとおして暮らし方、生き方に触れると、そんなことが可能なのかなと思えてきます。
今回は、シャロムヒュッテで実践しているパーマカルチャーの紹介、自然農の畑では、野沢菜、ニンニクの種まき、自家採種をしました。
● パーマカルチャーの実践
「パーマカルチャーがオーストラリアのビル・モリソンとデビット・ホルムグレンのふたりによって体系づけられたのは有名な話。タスマニアに生まれたビルは、大地と海とを相手に、漁師や森林労働などさまざまな仕事をして暮らしていた。しかし彼は、周りの環境が急速に失われていくのに気づく。やがて環境保護運動にも身を投じるが、ただ反対することだけでは何も変わらず、疲れるだけだった。そこで彼は発想を転換した。「NOといわず、YESと言おう!」彼は反対することを止め、失われた環境を本来あるべき姿に戻す作業を始めたのだ。ただ反対したり、現状を告発することではなく、具体的にどうすればいいのかを提示し、実践する。そこからパーマカルチャーは始まった」
(「パーマカルチャーをしよう」自然食通信社 http://www.ultraman.gr.jp/~perma/2006sassikousei.htm)
パーマカルチャー。どこか新鮮な響きをもつ言葉は、パーマネント(持続的・永久の)、アグリカルチャー(農業)、カルチャー(文化)を合わせた言葉です。パーマカルチャーとは、持続可能な農的暮らしをデザインし実践すること。自然そのものを観察し、暮らしに関わる伝統的な知恵を学び、現代の知識を融合させ、自らの暮らしを身近にするためにまとめられたライフスタイルのデザインシステムです。暮らしに関わる生活全般を含んだものです。ひとりひとりが、暮らしを身近にしていくことで、力強いメッセージが生まれてきています。暮らしていることがそのままメッセージ。どんな暮らしを発信しているでしょうか。
LOHAS(ロハス:Lifestyles Of Health And Sustainability「人と地球にとって、健康で持続可能なライフスタイル」)という言葉。都会にいながら、誰かが作ってくれたものを食べるという安全な生き方。食べ物について、暮らし方について、関心をもつ多くの人たちがあらわれてきています。新しい言葉を知ることで、それまで出会えなかった人たちと出会える機会が増えてきました。言葉を知ることで、曖昧だったことが少しずつ明確になるような気がします。
パーマカルチャー。自分で種をまき、育て、収穫し、食べる。いのちの巡りそのものに触れる農的な暮らし。都会でも田舎でも今いるところからはじめることが可能です。できることからはじめてみます。
● 森
シャロムヒュッテの森。
森の土は耕さなくても、こんなにも多くの木々が繁っています。
太陽エネルギーが何十年もの間をかけて、土を育て、木の中に蓄え続けられているのです。
里山では、森の木を切ることで木々が更新され、森が若返ります。
人は、森から食べ物や燃料、四季の恵みを受け取り、森は、光を得、若返るのです。
昔から続く自然の営みがあります。ここでは、人もまた生態系の一部なのです。
熱帯雨林に目を向けてみます。
豊かな樹木で覆われた森の中には、無数の生命がうごめいています。
ここにも豊かな命のつながりが感じ取れます。
でも、里山にある森とは少し状況が違います。
日本にある里山の豊かな土壌に比べて、
熱帯雨林の土壌は実は貧弱なのです。
熱帯では、高温多湿のため有機物の分解が非常に早く、栄養素が土の中に長い間とどまることができません。
そのため、栄養素の大部分が、木に貯えられることになるのです。
その木々を伐採し取り去り、牧場をつくり、大豆畑にします。
40年50年で砂漠になります。欲しがる人がいるから、換金作物の牛、大豆をつくる。
日本には、今40%の遊休農地があります。
そこでとれたものを食べる。
仏教用語で身土不二という言葉があります。
からだ(身)と環境(土)は不可分(不二)である。
暮らす土地において季節のもの(旬の物)を食べることで
からだは環境に調和し健康である、ということです。
栄養価は高いが、パイナップル、バナナを冬に食べる。体のバランスを崩し病気になります。
暮らす土地でできた、旬のものをまるごと食べる。今の時代、どちらでも選ぶことができますね。
● 堆肥トイレ(コンポストトイレ)
自分のウンチがどのように巡っていくのか。
普段は思いもかけない何気ないことです。
自然にかえる、と思いつつもどこか想像の世界。
堆肥トイレは、実際こういうことが可能だという素晴らしい提案かもしれませんね。
第1期安曇野パーマカルチャー塾の塾生で作成。
作業風景は、安曇野パーマカルチャー塾(2003年)レポートにて
http://www.ultraman.gr.jp/~shalom/2003.7parma.htm
堆肥トイレの使い方。
まず、バケツの中に落ち葉を入れ、便器の下にセットする。
その上から排便排尿をし、その上からまた落ち葉をかぶせる。
(バケツのコックを回すと水分だけ抜ける仕組み)。
発酵したものを木の根元に撒く。それにより木が育つ。ウンチを土に返す。
エネルギーが循環する。
浄化能力を超えなければ、問題はない。浄化能力を超える都市が問題になる。
大地、畑への循環を切ってしまうのが便利さ。
● アースオーブン
土でつくったオーブンです。身近にある土を使ってできます。自分たちでつくったパンやピザを焼いて、おいしくいただきます。シャロムヒュッテの森で遊んでいる野外保育「森の子」の子どもたちが使っています。
作業風景は、安曇野パーマカルチャー塾(2005年)レポートにて
http://www.ultraman.gr.jp/~perma/pc200510.htm
● チキンホットハウス
第2期パーマカルチャー塾の塾生がつくった鶏小屋(山羊小屋併設)です。
鶏小屋の横には、仕切りを隔てて温室が付いています。氷点下になる冬場でも、鶏の熱気で小屋の中があたたまり、苗床をつくって野菜の苗を育てることができます。
ある機能(鶏の体温)を上手く利用して、他の機能(育苗)を引き出す良い例です。
想像力を働かせることで知恵が生み出されます。
作業風景は、安曇野パーマカルチャー塾(2004年)レポートにて
http://www.ultraman.gr.jp/~love/parma2004.10.htm
● 「森の家」セルフビルドの家
版築(土と石灰を混ぜたものを固めて土台をつくる昔から伝わる工法)にて、4畳半の木造の家を作っています。
作業風景は、安曇野パーマカルチャー塾(2006年)レポートにて
http://www.ultraman.gr.jp/~perma/2006.9.18pc.htm
● メタンガス発生装置
産業廃棄物のドラム缶がエネルギー発生装置になるという提案。
ドラム缶の中に牛糞、豚糞、野菜くずを入れ、その上に短く切った別のドラム缶で蓋をする。すると中身が発酵し、メタンガスが発生。そのガスを都市ガス用のコンロにつないで使う。オール電化は便利だが、電気がこなくなるとただの箱になる。ひとつだけに役割を集中させると何か災事が起きたとき、それが使えなくなると大混乱。どんなときでも、代替手段「サブシステム」があると心強い。安心できる。
中越大震災は阪神大震災よりも大混乱は起きなかったそうです。コミュニティ、サブシステムがあったから。都会では、多かれ少なかれ、自分さえ良ければという意識があるのかもしれない。普段はお金でつながっているので問題に気づかない。お金がなくなれば、お金が機能しなければ大混乱する恐れがある。
● 天ぷら油で走る車(SVO車 ストレートベジタブルオイル)
ヨーロッパでは、植物油が軽油の代わりに利用されている。2台に1台はディーゼル車。
今、ヨーロッパではディーゼル車は環境に優しいということで見直されています。
天ぷら油などの廃油、菜種油を燃料として利用する方法は2つあります。
@油をそのまま使う(SVO:
straight vegetable oilとよばれる)、A油をバイオディーゼル燃料に作り替えてから使う
シャロムヒュッテの車はエンジンをSVO仕様に改造して、油をそのまま使っています。
畑に野沢菜の種を蒔きます。秋に収穫して野沢菜を漬け込み賞味します。春には残ったカブから菜花がとれます。おしたしにしたりおみそしるにも使います。古くなった野沢菜はピザのトッピングとして使い野沢菜ピザとして喜んでもらえます。
食べきれないものは菜の花として花を付けます。菜の花畑を愛でます。
1面の菜の花畑が生まれ北アルプスをバックに記念撮影が出来ます。観光名所が生まれます。実を結んだ種で菜種油を作ります。種も自家採取 来年につながります。
菜種油で春の山菜を天ぷらししてゲストの皆さんにお出しします。 天かすは植木鉢や畑に還元 野菜が育ちます。使用済みの天ぷら油は濾してSVOストレートベジタブルオイルとして車で使用
安曇野菜の花プロジェクトより http://www.ultraman.gr.jp/~staff01/
●キュウイ 原産は中国。日本では、さるなし。パッシブソーラ。
アクティブソーラー
● 温室、キュウイ棚
太陽熱や風呂の追い炊き釜からでる熱気で温室が温まる。地下部分に砂利層があり昼間の暖かい空気を蓄熱夜放出します。春先には、ここで苗を育てています。また、
室内には薪ストーブがあり薪ボイラーになっています。床暖房につながりその配管も温室を通っているので加温設備がいりません。
温室の前には、キュウイ棚。夏には、葉が繁り日陰をつくり、冬には、葉が落ち日が入ります。
部屋の窓には、産業廃棄物のペア(二重)ガラスが使われています。設計図にあわせて、ガラスを購入することはよくあります。けれども、産業廃棄物のガラスの大きさに合わせて、設計をすることで、いらなくなったものをタダで利用することができます。現物が先で、設計は後。こうすることで、使われない物にも再び価値を生み出せます。他にもペンションの石垣に使われているレンガ。ペンションをつくった当時20年前には、産業廃棄物ということでタダでもらってきて石積みしたそうです。このレンガも最近ではガーデニングで使われるようになり値段がついているそうです。今では、近くの山に行って、石を拾い、石積みする。そうすれば、立派な素敵なものができあがります。
昔は、近くにあるもので家をつくったそうです。木があれば木でつくる。藁があれば藁でつくる。昔は家をつくってはじめて一人前と認められたそうです。
● 水道水
水道水を使うとその先には稲が実っていました。普段、水道を使って流れる水がどこにいくのか想像しませんが、「あっ、そうか」と気づかされます。きれいになった分、外を汚している。そう考えれば、少しぐらい汚れていても平気でしょうか。
●石積のうずまきの庭(ロックスパイラルガーデン)
うず巻き状に石が積まれている小高い山にはハーブが育っている。小高い山をつくることで2次元の平面から3次元の立体へと変化する。そうすることで微気象が生まれる。このちょっとした変化が多様性を生み出す。小高い山を自分でつくってみることで、視点が2次元から3次元に移り、俯瞰する眼をもっているのに気づく。
きれいなおしゃれな庭をつくる。食べられる庭をつくる。夕飯にネギが足りないから、パートナーから、ちょっと庭からとってきてもらう。身近な暮らし。
●鍵穴の庭(キーホールガーデン)
畑を囲うことで作業がしやすくなります。どこでも手が届くようになっています。
●ストローベールハウス
3匹の子豚の話を覚えているでしょうか。藁の家。木の家。レンガの家。子豚の兄弟たちがそれぞれ家をつくるお話です。お話では、藁の家は狼に吹き飛ばされてしまいましたが、昔からの知恵を活かすことで藁の家はとてもすばらしい家になりえるのです。
藁は6ヶ月でできます。春先に種籾をまいて秋に稲刈りをして6ヶ月で再生します。化石燃料を使うことなく再生される素材を利用することができます。
藁は風に弱いという弱点があります。そこで土を塗ることで強固にします。漆喰を塗ることで水に強くなります。ひとつだけだと欠点。ふたりいると弱さがカバーできます。3人いれば、他人にできないこともできるようになります。
家を建てた分、緑を取り戻そうと、屋根には草花を育てています。濡れて湿気るのは屋根にとってはマイナスですが、ルーフィングすることで、それは防げます。
● 薪の石窯
この石窯で毎日、おいしいパンとピザがつくっています。
薪の石窯 http://www.ultraman.gr.jp/~shalom/isigama.htm
● 自然農の畑
畑に草が生えています。土は草も野菜も分けへだてなく、包み込んで育てています。草もお返しにと、太陽エネルギーをたっぷり吸収して土に分け与えています。おかげさまの世界です。自然界はうまくできていて、循環されています。そこに野菜の種をまきます。仲間に入れてもらうのです。草を敵としないでどう仲良くなるか。草が生えている土地を自然に任せたままでいると森になる方向に進んでいきます。畑の中に木が生えていても、耕そうとしなければ、その木も邪魔にはなりません。木が育つことで、日陰ができ、新しい環境が生まれます。そこには多様性が生まれます。そこにあった野菜をもうひとつ育てることができるのです。
先月まいた蕎麦がこんなにも育っています。覚えているでしょうか。草の上から、そのまま種をばら撒いた後、草を刈って敷いただけ。見事に育っていますね。
●レタスの種まき(苗床づくり)
苗床をつくりレタスの種をまきます。苗床に種をまくのは、春にレタスとキャベツを。先月はキャベツを。もう大丈夫ですね。
レタスやキャベツのような小さな種の野菜は苗床にまくと育てやすいです。はじめは幼稚園のように集団でそだてます。
草のなかにどのようにして種をまくのか。自然界では、耕したところはありません。地上部の草を地際で刈り取ります。地上部の草は地上部で枯れ、地下部の根、地下で枯れさせます。草は太陽エネルギーを固定します。草を刈るのは種をまくとき。野菜が草に負けそうになっているときに。
まずは苗床づくり。レタスの赤ちゃんのためのお遊戯場をつくります。
@
種をまく部分の草を刈る。
地際で丁寧に刈る。根は残したまま(地下茎は取り除く)。根が残っていることで他の草が生えてくるのが遅くなります。
土がフカフカやわらかい。根が耕してくれています。水はけ、水もちがよく、保水性が高い土は、団粒構造が発達しています。自然界では、微生物のおかげで土ができてきます。
A土の表面をかきとる。
土の表面には無数の種が落ちています。軽く鍬で表面の土をとりのぞきます。レタスのように競争が苦手な種は、この方法でします。
B表土の根を断ち切る。
鍬を軽く土に入れて、根を切ります。モグラの溝を発見したら、踏み溝をつぶします。ここには野菜を育てるので、少し脇に通り道を作ってくださいと、住み分けをお願いします。モグラが多いということは、それだけミミズが多いということ。
C土の表面を平らにする。
高い低いの高低差をなくします。高い低いができることで、乾きやすいところ、湿り気があるところと微気象が生じ、生育がばらけてしまいます。はじめに丁寧に平らにすることで、発芽がそろい、目が行き届きやすくなります。平らにした後、平らな鍬の背で鎮圧します。
E
レタスの種をまく。
綿毛のついた小さな種です。一度に播かず、往復しながら播くと均一に播けます。
F
土をかける。
苗床の横の土を掘り起こし、種を播いた苗床の上全体に種の大きさの2〜3倍の厚さで土をかけます。
G
鎮圧する。
自然農では水をやらず、下からじわじわ上がってきた水分で発芽するのを待ちます。そのため、鎮圧する(土を上から押さえつける)ことで、覆土した土と、大地の土をくっつけ、水の通りみちをつなげます。自分で水を見つけ、自らの意思で発芽し、自分の根で育つのを選択した種は力強く育つのです。
H
刈った草を敷く。
発芽まで乾燥を防ぐため、敷草をして適度な水分を保ちます。芽がでてきたら、四季草を取り除き、日当たりがよいようにします。種をまいていない脇に、厚目に敷草をすることで草が生えてこなくなります。
安曇野では、レタスを冬越しする場合、10月に播いて春に移植します。温室は必要ない。今の時期撒く分については、冬越しせず、今年中に食べます。
「今年は、実を結ぶのがはやい。秋が短い感じがする」と竹内さん。3回くらいに分けてまくと、播くのに良い時期が分かってくる。移植は、双葉が残っている間にする。双葉には栄養が蓄えられている。本葉4枚ぐらいで移植する。乾燥しているときは、草を刈る前に水を遣ると草の根から水がすっと入っていく。耕してから水をまくと、土がべとべとになってしまう。
● 野沢菜(のざわな)を播く
先月のソバと同じように草の上から、そのまま種を播きました。
@
草の上から種を播く。
A
草を地際で刈りとり、敷く。
B
敷いた草の上を踏む。
一度に播かず、往復して播くと均一に撒ける。ハコベやオオイヌノフグリなど9月に生える草は、夏草のように背丈が高くならない。
● ニンニクを植える。
ニンニクを1片ずつに分け、15p間隔で植えました。まずは、植えるところの草を刈り取ります。5cmほどの深さの穴を掘り、ニンニクを1片ずつ埋め、土をかけます。その上に刈った草をかけて踏み、かけた土と地面をなじませます。
● パーマカルチャーと自然農
オーストラリアでパーマカルチャーを体系化したビル・モリソンさん。三重県赤目で自然農を実践されている川口由一さん。二人は、同じ人を追いかけてそれぞれの道に辿りついたそうです。同じ時期に同じ本を読んで。福岡正信さんが書かれた「わら一本の革命」という本があります。この本に出会い感銘を受け、それぞれの現場で実践されたようです。豊かな自然に恵まれている日本では自然農という実践。オーストラリアの厳しい自然環境のなかで、上手く活用できるようにデザインという形で上手く活用できるように体系化され広まったのがパーマカルチャーという実践。どちらも、その土地の風土に応じることで、暮らしを身近にできるという提案。こうして自然農に魅かれる私たちは、どんな暮らしを実践したいからなのでしょうか。
● 自家採種
インゲン、カボチャ、キュウリの自家採種をしました。
振り返りと自己紹介タイム
名前、どこから来たのか、今関心があること。
毎回会う人。新たに出会う人。いつも感じるのは、聞くこと伝えることで自分自身との出会いがありますね。 |