シャロムヒュッテの自然農
●畝を作る・種を蒔く
土を耕さずに、野菜作りをしている人たちがいるという。
農薬はもちろん、肥料も使わない。
それで実りがもたらされるなら、これほど素晴らしいことはない。
それこそが「自然農」。
しかし、果たしてどうやってーそれを確かめたくて、信州安曇野の地を訪ねた。
文●わたなべようこ
写真●キッチンミノル
●臼井健二/宿、レストラン、ショップが集まったエココミュニティ・舎爐夢(シャロム)ヒュッテのオーナー。
900坪の田畑では、あらゆる農法で作物を栽培、比較を試みている。http://www.ultraman.gr.jp/~shalom
●竹内孝功/自然農法菜園アドイザー。
松本市にて「自給自足の休日倶楽部」を設立、食卓に感動を伝える野菜作りを教えている。
美しき自然農の畑
安曇野の4月。周囲の畑では、柔らかく耕され、堆肥が鋤き込まれた焦げ茶色の土が、夏野菜の苗の植え付けを待っている。その一方で、シ
ヤロムヒュッテの自然農の畑は、この通り、まるで緑の絨毯。一面を覆
っているのは、オオイヌノフグリ、ハコベ、ヒメオドリコソウなど、作物を育てる人達にと
って、「雑草」と呼ばれる植物ばかり。
しかし、この畑に立つ心地よさと風景の美しさは、むしろ「草原」に似ている。
「きれいでしょ」そう言いながら畑を案内してくれるのは、臼井健二さん。
よく見ると、草と並んで、小さなニンジンやレタスが顔をのぞかせている。臼井さんは敷地内の畑で、川口由一さんの自然農、
岡田茂吉のMOA自然農法 福岡正信の自然農法 シュタイナーのバイオダイナミック農法、パーマカルチャー、有機農と、過去さまざまな方法で野菜作りを実践している。
その体験から「自給用の畑なら自然農が一番いい」という。
耕さない畑
そもそも自然農とは「耕さない、持ち込まない、持ち出さない、草や虫を敵としない」という考え方で行われる野菜の栽培。生き物すべてが共存・共生し合うのが本来の自然の姿。その中で、人間が環境に負担をかけることなく、少しだけ手を加えることで、その実りをいただく。
「森を参考にすればいいんです。木々は人が何もしなくても、毎年大きくなりますよね。畑を耕し肥料を与えれば、一時的に収穫量は上がるけれど、自然の絶妙なパランスをくずすことも多い。自給用なら、できた分だけ収穫できればいいんだから、もっと自然でいいと思う」と臼井さんは続ける。
そして
「ちゃんと実るんですよ。それも、普通の野菜とは違う、香りが高くて、生命力豊かなものが」実際、自然農の畑の土に触れると、その柔らかさに驚かされる。指を差し込むと、すっと潜り込んでいく。耕していないというのに。
「それは、地中に草の根を残しているから。自然農の畑では、根は抜かずに、表面を刈るだけ。『根穴構造』といって、土の中で腐った根が空気や水の通り道になり、団粒構造になるから、土が柔らかい。微生物や小動物の住みかを壊さないことになるので、絶妙なバランスが生まれるのです」その上、根が残っている畝は、雨が降っても土砂流出することもない。
偉大なる草の役割
種を蒔くときに刈った草は、隣に置いておく。「光を遮断して、草の生長を抑えるんです。その上、積んだ草は朽ちて肥料になるので土が豊かになる。また、苗の植え付け
種蒔き後に、刈った草を敷き詰めますが、それは保温、保湿効果があるから。おかげで、水やりの必要がありません」自然の理にかなった栽培法。それが自然農なのかもしれない。今回は、臼井さんと、安曇野自然農学習会講師、竹内孝功さんに、自然農の畝の作り方と、種蒔きの方法を教えていただいた。
自然農の畝の作り方
1.畝を作る場所を決めて、スコップで四角く筋を入れておく。畝幅は、作業がしやすいよう通路から手が届く範囲にすること。
2.草の地上部をノコギリ鎌で刈り取り、刈った草はよけておく。
3.草刈り終了。
4.草の種が落ちていることがあるので、表土を軽くかき出す。その後、大きな根を断ち切る(根切りをする)。
宿根草類の根は取り除く。
5.土が露わになってきた。後に草が出にくくなるよう、ここまでの作業を丁寧に行うことがポイント。
6.畝を囲むように、通路になる講を作る。畝幅を決めたら、両側をスコップで突き刺して筋を入れ、10cmほど深く掘る。掘った土は畑 畝に盛る。
7.盛った土をほぐして、元の土となじませる。
8.土を平らにならして軽く押さえる(鎮圧)。
9.土が崩れないよう、両脇もしっかり鎮圧すること。
10.2で刈った草(種がないところ)を表面に敷き、風で飛ばないよう鎮圧する。
11.痩せた土の場合は、草の上から米ぬかをまく(微生物のえさになる)。
12.畝の完成。畝作りは、翌春に備えて軟の農閑期(11月頃)に行うのがペスト。
[苗床の作り方、種の蒔き方]
1.苗床は畝の一部に作る。
2.苗床にする場所(幅30cmくらい)の草を地際から刈り取り、片側によけておく。
3.表土に草の種が落ちていることがあるので、表土を軽くかき取る。
4.草の根を断ち切る(根切り)。
5.土が平らになるよう、鎮圧する。
6.苗床に種を蒔く。密にならないよう、指と指の間からバラパラと均一に。
7.3種類の種を蒔いたので小枝で仕切り、それぞれの名前を書いておく。草の種が混ざっていない土を種の上にかける。鎌の背で軽く土をたたいて、種と土をなじませても良い
8.上から押さえて種と土を鎮圧する。
9.保温、保湿のために種のない草を土の上に敷き、風で飛ばないよう鎮圧する。
*すじ蒔きで育てる場合は、手順2のときに幅を15cmほどにし、同様の作業を行う。
[種芋の植え付け方]
1.斜めに微を差し込み、土を持ち上げる。
2.10cmくらいの深さのところに、種芋を置く。
3.鍬を抜いて土を戻す。作業はたったこれだけ。どこに植えたかわかるように、表面の
草を刈ってマークを立てておく 今回のまとめ
作業は丁寧に
自然農という言葉からは粗い作業をイメージしがちだが、実はとても繊細。特に、種蒔き作業を丁寧に行うことで、後々の作業が楽になるという。これは子育てのとき、生まれた直後はたっぶりと手をかけ、大きくなったら自由にのぴのぴと育てるのと同じこと
自然農の畑からシヤロムヒュッテを望む
草の刈り方
ポイントは、ノコギリ鎌を使って地際すれすれを刈ること。刈る場所は、種や苗を植え付ける場所だけ。
地表だけを取り除けば、種を蒔いたばかりの作物の生長を邪魔する草の発生を抑えることができる。
種蒔き後の管理
発芽の頃、保温・保湿のために敷いた草が作物の生長を邪魔するようなら、少し取り除いて薄くする。その後は自然の力に任せ、作物が負けてしまうほど草が生い茂ったら、刈り取る程度に。
草は、肥料やバンカープランツ
(害虫の天敵を貯える)となり、野菜の生長に役立つ。
草の間からこぼれ種で芽吹いたニンジン
自然農の畑なら、草の上で昼寝もできる。
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