シャロムヒュッテの自然農
種を採る
とってもおいしい野菜が育ったとき、「これを来年も育てたい−」と思ったことはありませんか?そんなときは自家採種。
自然農はもちろん、そうでなくても、ぜひ知っておきたい、種採りの意味とその方法。
種は買うもの?
私たちがシャロムヒュッテの自然農を取材するために初めて安曇野を訪れた今年の春、オーナーの臼井健二さんがまず見せてくれたのは、倉庫の中から取り出してきた、ありと
あらゆる野菜の種だった。あるものは小さな封筒に、あるものはカゴの中に房のままごつそりと積まれた何種類もの種は、前年の秋に畑で採種したもの。そしてこの種を蒔いて野菜を育て、また秋に種を採って……と繰り返すのだという。
「種は買うものと思われがちだけど、自家採種した種の方が、その場所の環境に順応していて育てやすいんだよね」以来、何度も登場する種の話に、私たちは種採りの面白さを知った
F1種からシャロムの固定種へ
種には大きく分けてF1種(一代交雑種)と固定種がある。一般によく売られているのはF1種で、種袋に「00交配」などと書かれている。これらは異なる品種をかけ合わせ、両親の優れた点を受け継いだ、いわばハーフの子供〞の種で、どの地でも育てやすく均一した収穫ができる。一方、固定種は代々受け継がれ、伝えられてきた種のこと。無肥料、無農薬で自然に近い状態で育てる自然農では、日本の国定種(在来種)が一番育てやすいという。
「でも、最初はF1種だっていいんです。F1種から採れた種を蒔くと、次に生まれてくる子供は親のどの遺伝子を受け継ぐかによって、株ごとに形にも味にもバラツキが出てくる。
その中からさらに、自分が残したいと思う種を残してそれを蒔いて、と繰り返していくと、その場所の固定種ができるんです」と、自然農講師・竹内孝功さん。
種を採り続けることによって、その土地の気候や風土にも、育てる人のやり方にも、そして味の好みにも合った、オリジナルの種ができるというのだ。
「『持ち込まず、持ち出さず』
で、永続しているのが自然界の姿。だから、自然農では自家採種はごく当たり前のことなんです。その上、買ってくる種は消毒してあったり、遺伝子組
み換えしてあったり。種だって安心できるものがいいですよね」
手間をかけることの豊かさ
実は、種採りの作業は少々面倒なところがある。実がかなり大きくなるまで株のまま熟させるため、旬の季節が終わっても、しばらくはいくつかの株だけを畑に残しておかなければならない。収穫してからも、洗ったり干したりと時間も手間もかかる。
「買ってきた方がよっぽど効率がいいんです。でも、ひと手間かけることで、自給自足=『依存しない暮らし』
に近づくことができる。長い目で見ると、面倒なことが豊かさに通じるんですよね」
雨降りの秋の日は、種採り日和。ちょうどそんな一日に、夏野菜の種の採り方を教えていただいた。
[ダイコンの種採り(風選)]
1.収穫したダイコンの種。このように房のまま冷暗所に保存しておいてもOK。
2.中の種だけを残すときは、まず箕などの上で房を割る。手で握りつぶしても棒を使ってもいい。
3.箕を両手で持って上下に振り、種と穀を分ける。
4.息をそっとふきかけ、軽い穀を吹き飛ばす。
5.次第に殻がなくなってきた。
6.3〜4の作業を何度も繰り返し、種だけがきれいに残ったら完了。風を使うので、この作業を「風選」という。ニンジン、葉もの類など、小さな種は風選
[トマトの種採り(水選)]
1.トマトは完熟のものを収穫し、さらに10日ほど置いて種までしっかり熟させる(追熟させる)。
2.まず半分に切り、スプーンの柄で種をかき出し、ボールにあける。
3.ピンに移して、直射日光が当たらないところに4日〜1週間はど置き、発酵させる。目安としては、種のまわりのゼリー質がさらさらしてきたらOK。
4.再びボールに移し、水洗いをする。
5.新聞紙の上で乾燥させる。風で飛ばされないように注意。
6.お皿に移し、2週間はど乾燥させて完了。
[キュウリの種採り(水選)]
1.キュウリは黄色くなるまで畑で育てたものを収穫し、さらに10日ほど追熟させる。
2.中心に入った種を割らないよう、少しずらして縦に2つに切る。
3.スプーンで種をかき出す。
4.まわりのぬめりが取れるよう、よく水洗いをする。浮いてくる種は、実が詰まっていないので捨てる。
5.新聞紙に広げて乾燥させる。
6.ある程度乾いたら、お皿に移してさらに2週間はど乾燥させる。大きな種は芯まで乾燥しにくいので特に注意が必要。水分を含んでいるとカビの原因に。
[カボチャの種採り(水選)]
1.収穫して追熱させたカボチャ。
2.半分に切り、スプーンで種をかき出す。
3.タマネギやミカンが入っていた網の袋に入れてゴシゴシ洗い、外側の綿をきれいに取りのぞく。
4.キュウリとは逆で、カボチャは浮いたものが良い種。
5.浮いた種を、ザルですくい上げる。
6.新聞紙に広げ、さらにお皿に移して芯までよく乾燥させる。カボチャはトマトやキュウリと違い、種が大きくなってからでも食べられる野菜なので、食べておいしかったカボチャの種をのこすといい。
今回のまとめ
種の保存法
種は、水、光、温度の3つの条件が揃うと発芽する。だから、風通しの良い冷暗所に保存するのがベスト。例えば紙の封筒に入れて冷蔵庫へ。種はいったん水を含んでしまうと、発芽しようとして体力を消耗するため、実際に蒔いたときに発芽率が下がってしまう。自然界から敢えてもらうニンジンは、高く伸びた茎の先に小さな花をたくさん咲かせ、ゴマのような種をたくさんつける。それが次第に倒れて、種が散らばる。だからニンジンはパラパラとたくさんの種を蒔く筋蒔き。ダイコンは4粒はどの小さな種が入った房を、そのまま落とす。だからダイコンは3〜4粒の点蒔き。自然の姿を見続けると、育て方がよくわかる。秋の畑夏野菜が終わった後のシャロムの畑には、大根や野沢菜などの秋野菜が芽吹いていた。新芽の緑色と敷き革の茶色が交互にどこまでも続き、とても美しい。
種は紙袋に入れて冷暗所で保存
小さな種をたくさんつけ、倒れ込むニンジン
秋の自然農の畑は、小さな草と敷き藁の絨毯 |